Broken Rainbow - Japan、そしてLGBTIQレイプサバイバーへのメッセージ

活動を共に進めていくメンバー、そして、応援してくださっている皆さんからの寄せていただいたメッセージを紹介します。

※順不同(メッセージをいただいた順番で、順次掲載させていただきます)


※名前をクリックするとそれぞれのメッセージに直接リンクします。(敬称略)


   

岡田実穂

レイプクライシス・ネットワークで代表をしています。私たちの団体は極小規模な組織運営をしているのですが、それでも日々、本当に様々な想いを抱えたサバイバーやその周囲の人たちから連絡をいただいてきました。その中でも、「訴えたいけど訴えたらセクシュアリティがバレてしまうから」とか「(セクシュアリティを)バラされたくなければ誰にも言うなと言われた」とか、例え訴えたとしても「同性なら仲直り出来るだろと言われた」とか、「そういう人たち(LGBTIQ)は被害にカウントされないんだ、と警察に言われて帰された」とか、「そういう人(LGBTIQ)の相談はそういう人たち(LGBTIQ団体とか)に聞いてもらってと言われて相談すら出来なかった」とか、こういう話を聞く機会が、本当に多いです。そして、先日LGBTIQと性暴力被害というイベントを開催したのですが、その会場で終了後呼び止められ、3名の女性から「私の被害は、まだ被害とは言われないんですよね」ということを言われました。全員が、女性からの被害を経験した方でした。それは、なんとも言えない表情で。

110年ぶりの改正はまだ終わってない。私たちにとっては。暴力を暴力だと言える、そんな社会を一緒に作って行きましょう。

   

宇佐美翔子

レイプクライシス・ネットワーク理事。女性同性間DV/レイプサバイバー 叔父からの性被害サバイバー。 Broken Rainbow-Japan代表

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110年ぶりの刑法改正。サバイバーにとってそれは本当に息をのむ時だったのではないでしょうか。 わたしも性暴力サバイバーです。女性の身体を持つ相手からの手指を使ったレイプ被害があります。そしてレズビアンであり、LGBTIQのサポートをする中で、わたしの周囲にも多くの女性同性間、または陰茎を介さないが身体に性的な侵襲行為があった性暴力サバイバーが存在します。 でも、これらの被害は110年経った今も刑法上のレイプではないのです。 いえ、被害当事者としてはレイプです。しかし、それを法律が想定しないことは多くのLGBTIQサバイバーの存在を見えないものにしていまします。 今回の改正では性差は撤廃されたと言われています。しかし、被害/加害どちらにせよ陰茎が介在しなくてはならない事も明記されました。

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わたしの被害は《まだ》 「書かれていない」。 書かれていないということは 「被害って言えないし、言うほどの事じゃないってことか」 そんな気持ちになりました。もっと現実に即した法律が欲しい。 被害を被害だと言える社会にしたい。何を使われたかによって、被害者の心理的負担を法律でジャッジされる事に疑問を感じています。 3年後の見直しの時、《自分は法律にも書かれていない、取るに足らない小さな出来事に苦しんでいるってことか》と自分を責めてきた事について終止符を打つ必要があります。 そのためにはLGBTIQの性暴力被害実態を具体的に想定した見直しが必要です。 せめて「あれは、確かにレイプ被害だった。」と言える様に、 LGBTIQサバイバーと3年後に向けて共に歩いていきたい。


   

大西 連

認定NPO法人 自立生活サポートセンター・もやい理事長

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大西連です。ふだん、「貧困」をテーマに活動しています。生活に困っている人たち、ホームレスの人たち、生活保護を利用している人たちと接するなかで、「声をあげる」ということが、どれだけ難しいことか、大変なことか、日々、考えさせられます。自分の経験を言葉にすることは苦しいこと。でも、誰かに語らないと明らかにならない問題もある。私たちは勇気のバトンをつないで、きちんと社会のなかで形にしていく必要があります。日本で性暴力の問題はまだまだ可視化されたとは言い難い現状です。一人の声を大切に、それが何より重要なことと思います。

  

要 友紀子

SWASH(sexwork and sexual health)代表

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何が性暴力かは私が決めるというのが性的自己決定権の考え方です。 改正刑法はその原則の立場に立たなかったのだから、いま必要なのは、改正刑法が排除した人々の立場に立った刑法見直しの喚起です。 国が名付ける罪でないと、受理されないたくさんの被害があるように、性暴力被害者もまた、その性暴力被害が大したことあるか、大したことないかということを他人にジャッジされる不条理な社会の中で権利を訴え続けてきたことに思いを巡らせてください。

  

池畑博美

任意団体 虹色のたね 代表 (特定非営利活動法人認証申請中) 認定特定非営利活動法人 エンパワメントかながわ 事務局長 理事

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性別やセクシュアリティに関係なく、全ての人の性的自己決定権が尊重される社会の実現のためには、更なる刑法の見直しが必要です。 パートナー間においても、合意のないあらゆる性行為は、暴力であること。 そんな当たり前のことを、声高に言わなくてもいい社会にするために。 活動し、発信し、共に歩みます。


  

三橋 順子

性社会文化史研究者・明治大学非常勤講師

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このテーマの原則は、同意なく、暴力的に、他者の身体を侵犯してはいけない、それは明確に犯罪である、ということです。 それは、手法(性器を使うか、指を使うか、器具を使うか)、被害者・加害者の性別(女性か、男性か、トランスジェンダーか、など)にかかわりなく、すべての侵犯において許されることではありません。 今後の法改正は、この原則に基づいて行われるべきだと考えます。

  

打越 さく良

弁護士

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約110年ぶりに刑法が改正されたことを前進ととらえてほっとする。そうすることにより、LGBTIQの性暴力の被害者を軽視してしまっていないでしょうか。

私自身、刑罰法規の明確性の観点から性暴力の行為を明確に限定しなければいけないことはわかります。しかし、陰茎挿入に絞ることは、性暴力を人格や尊厳を侵害する行為というより「男性の血統」を乱す行為として捉えた明治時代に成立した刑法の性差別的な考え方の残滓であると思えてなりません。性暴力の規定を、「男性の血統」から発想するのではなく、被害者の人格、尊厳に照らしたものに改めたい。切に願います。

  

濱田 すみれ

濱田すみれ/NPO法人アジア女性資料センター・スタッフ

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「わたし」と「あなた」には、違うところ、似ているところ、同じところがある。人はそれぞれ、さまざまな属性をもって生きているから。だけど、こんな当たり前のことを忘れてしまう人は多い。RC-NETは、性暴力サバイバーの多様なセクシュアリティやバックグラウンドに常にセンシティブであり、マイノリティであるがゆえに支援体制から排除されがちなサバイバーの実態を把握したうえで、丁寧なサポートを提供してきた。しかし、110年ぶりに大幅改正された性暴力に関する刑法は、残念ながらサバイバーのもつ多様な属性をふまえ、被害者の尊厳を保障する内容になったとはいえない。性暴力サバイバーを「被害者」と「被害者ではない者」と分けてしまうような法体系は、サバイバーの間に分断をもたらし、特に「被害者でない」とされたサバイバーには大きなダメージを与える。3年後の見直しに向けて、性暴力について多様な属性に配慮した実態把握を行わせること、そして「陰茎」を介した性暴力のみを被害とみなす法体系を改めさせることが重要だ。わたしも、あなたも、あの人も、安心・安全を感じて生きていける法を獲得しよう。


  

山田嘉則

クリニックちえのわ医師

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精神医療従事者として、対人暴力、中でも性暴力がいかに人の尊厳を踏みにじり、サバイバーの心身と生活に甚大な影響を及ぼすかを間近に見て来ました。国際的にはこのことは広く知られており、この認識に立脚したTrauma-informed Approachが対人支援に取り入れられるようになっています。しかし残念ながら日本は認識・実践とも立ち遅れています。

性暴力に対する立法にもそれが表れています。性暴力とは「性」という手段を使った支配であり暴力です。男性から女性への性器挿入はその一部に過ぎません。それ以外の性暴力、とりわけ同性間の性暴力やLGBTIQに対する性暴力は、日本では十分に可視化されていません。被害を訴えることの難しさ、支援の乏しさがサバイバーをより困難な状況に追い込みます。性犯罪は暗数が多いとされますが、LGBTIQの被害はさらに潜在化しやすく、実態の把握は容易ではありません。しかしそのことをもって過小評価してはならないことは様々な調査、そして私自身の経験が裏づけています。

法はすべての人の権利を守るために存在します。そしてもっとも権利侵害されやすい人々に対して、奪われた権利と尊厳を回復することが法の役割であると信じています。その意味で今回の法改正は出発点ではあってもゴールではありません。

すべての性暴力サバイバーが、ジェンダー・セクシュアリティの如何に関わらず、人としての尊厳が守られるための法整備を求めて行きましょう。

  

杉山文野

トランスジェンダー活動家

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レイプする人がいけないのか、レイプされるような隙がある人がいけないのか。

どこからがレイプでどこからがレイプではないのか。

その人の属性や手段まで、そんなことが未だに議論されていること自体に憤りを感じます。

どんなシチュエーションであれ他者を傷つけていい理由などなく、頭と心と体、どこであっても、性的に、暴力の対象にされたのならば、それは既に性暴力なのではないでしょうか。

また、そのような事実に対し声が上げづらい社会構造、それ自体が暴力にも感じます。

誰もが安心して暮らせる社会を目指しましょう。

自分にできることをつみ重ねながら、みなさんと共に歩みたいと思います。

  

東 優子

大阪府立大学教授

レイプクライシス・ネットワーク理事

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約110年ぶりの法改正。強姦罪について、男女がともに被害者にも加害者にもなり、陰茎の膣挿入だけでなく、口腔内と肛門への挿入も強姦とみなされるようになったことで、これまで大きく乖離していた法規定のありようが性犯罪の実情に近づいた。しかし、強姦の定義が陰茎挿入に限られたことをはじめとして、法改正が議論された会議室と被害現場の距離を感じる。付帯決議に盛り込まれた「男性や性的マイノリティへの不当な扱いをしない」のゆくえは、声をあげることからしか変えられない。陰茎ではないモノで身体を侵襲され、尊厳を踏みにじられるのは、男性や性的マイノリティを含む「あらゆる人々」である。見守っているだけでは、誰かの活躍に期待するだけでは、身体の自律を含む「性の権利」をめぐる法規定や社会は変えられない。


  

稲吉 久乃

途切れない支援を被害者と考える会 事務局長

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私はこれまでレイプサバイバーとしての活動はして来なかった。

それはなんでだろうと考えたら、こんな男みたいな奴がレイプされるなんてありえないとか言われるんじゃないかなーと思ったことも大きかった。

ただただずっと自分を責めていた。

そんなことはダメだと思うんだ。

何か素敵な方向で動き始めるように、私もなんかするよ。

その一歩の為のカミングアウト。

  

マサキ チトセ

評論家

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私は知っていました。

あれがまぎれもないレイプであり、私に責任がないこと、そして警察はそうは思ってくれないだろうことを知っていました。

女性が受ける性暴力被害について、多くのフェミニストが、そう教えてくれていたから。LGBTQもまた、性暴力被害を受けることがあるということを、教えてくれていたから。

でも、いざ自分がその身に置かれたとき、いざ目の前の屈強な中年男性警察官が私を信じようともしていないことや、あわよくば私がクィアであることを利用して私の被害をもみ消そうとしていることに気づいたとき、憤りだけではなく、諦めの気持ちや、もしかしたら確かに私がされたのはレイプではなかったのかもしれないという思いが心を埋め尽くして行きました。

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(←続き)

LGBTQにも性暴力が降りかかることがある、いやむしろLGBTQだからこそターゲットにされることがあるということを、もし私が知らなかったら。

私はどれだけ苦しんだだろう。

どれだけ自分を責めただろう。

サバイバーという言葉を知らなかったら、事の最中に諦めて生き延びることを選んだことを、どれだけ恥じ、隠していただろう。

だから、知られなければいけない。

性暴力は誰にでも起き得ることなんだということ。

社会的に弱い立場に置かれるマイノリティは、余計にその可能性が高いということ。

そしてどんなに自分を責めることができたとしても(そして責める理由は、探せば誰でもいくらでも出てくる)暴力の責任はあなたにはないんだよということを。

I may have been broken

but I've been mending the pieces

'cause I will survive.


  

畑野 とまと

トランスジェンダー活動家

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以前Twitterでとある活動家の方が『男性はレイプされるって事がないよなぁ』と軽い感じで書き込んでいるのを見て、すぐさま『レイプに男女は関係ありません。私自身、トランスする前、男子中学生だったころに被害にあいました』と返しました。その方はすごく驚いたようで、すぐにそのツイートを削除していましたが、LGBT関連の活動をしている人でも、そういう認識をしているということに愕然とした思いを感じました。刑法は改正されましたが、まだまだ社会における性暴力のイメージが変化しているとは思えません。性暴力の背景に多様な形があることが、世間に広まっていきより多くの人達が、その問題を認識してくれるようになることで、法の変化もまた生きてくるのだと思っています。

  

本山 央子

ジェンダー研究・アクティビスト

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統治する側の視点で規定されていた刑法性犯罪が、多くのサバイバーと支援者の声によって100年ぶりに見直されたことは、間違いなく大きな前進でした。そのことによって見えてきたのは、ゴールではなく新たなスタート。誰もがひとつの型にはめられない性と関係性を生きているという現実の中から、何が性的権利であり侵害であるのかを、真に普遍的な言葉で再定義していくという新しい課題です。そのためには、男性や支配的性規範にあわない人たちがどのような形で性暴力を経験しているのかをきちんと聞くこと、性暴力に関する理解を閉じてしまわずに開き続けることが、とても必要だと思っています。

  

よねざわ いずみ

トランスジェンダー

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今回の刑法改変をめぐって、2003年のいわゆる性別特例法制定を思い出しました。あのとき多くのトランスジェンダーが悔しい思いをした。そして定着してくると、条文が前提とする医療に自らを縛られる当事者が出てきた。しかし希望を失わない当事者や支援者のふんばりもまた、少しずつ進んでいます。「本人が望まぬ性的な強制は性別や内容にかかわらずすべからく性暴力である」というあたりまえのことを明確にさせるための取り組みに、心から賛同します。性別特例法も、制定5年後の見直しで、とりわけひどすぎる条項が少しは改善されました。刑法の施行3年後の見直しでは、きちんと、あたりまえのことを条文とさすべく、協力させてください。


  

 

 

清水 晶子

東京大学教授

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今回の刑法改正は、性暴力においていわば膣挿入に特権的地位を与えないことにした、という意味では、確かに重要な前進であったのだと思います。けれどもだからこそ、にもかかわらずなぜ陰茎にはいまだ特権的な地位が与えらえ続けているのか、その点が必然的に問われざるをえません。

合意のない性的侵襲行為は、それが身体のどの部位に向けられたものであれ、身体あるいはそれ以外のいかなる器官や器具を用いたものであれ、性的暴力として経験されうるものです。そこで陰茎の有無が問われるのは、「本当の=本当に問題になる」性行為は陰茎を介したものだけだという前提があるからではないでしょうか。陰茎の所有者のみを本当の性行為の主体として認める前提、そして異性愛生殖に繋がる可能性をもつ性行為のみを本当の性行為とする前提が、そこにあるからではないでしょうか。

その意味で、陰茎挿入に特権的な地位を与え続ける法は、どこかで男性被害者や陰茎挿入を伴わない性暴力の被害者を「本当の」性暴力被害者とはみなしそこね続けるし、そもそも陰茎を所有しない身体の持ち主は「本当の」性行為の主体とはみなしそこね続けることになります。

2020年の見直しがこのような限定された性理解を脱し、今回の刑法改正で汲み取られなかった性暴力が性暴力として適切に認識されるようになることを望みます。

  

杉田 真衣

レインボー金沢共同代表/首都大学東京教員

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このところ、「LGBT」という言葉を口にし、「そういう人たちのことも考えないといけない」と言う人がまわりに増えました。運動の成果の現れであると思います。ですが、そういう人が、「LGBT」を一つの話題として扱ったあと、話題が変わったら、まるでその場に「LGBT」は存在しないかのような会話を繰り広げることが多々あります。「LGBT」という言葉を「自分は時流に乗っている」と示したいがためだけに使っているように感じてしまいます。私が求めているのは、「そういう人もいる」と「加えてもらう」ことではなく、そもそも性とは何なのかという、根本のところにある認識を一緒に変えていくことです。性暴力とは何かという認識についても、まずは私自身がサバイバーや支援者の方たちから真摯に学びながら日々更新していかなければなりませんし、その認識にもとづいて刑法を事実に即したものへと変えていきたいです。

  

堀江有里

信仰とセクシュアリティを考えるキリスト者の会(ECQA)代表

日本基督教団なか伝道所(横浜寿町)牧師

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「性暴力のない社会を!」―そんな思いを掲げつつ、いかほど、“日常”のなかで、それを実現しようと歩んできたのか。いわゆる「LGBTブーム」とともに性の多様性の称揚が、巷を賑わせつつ、いかほど、その“影”にずっと存在しつづける性暴力の問題に思いを馳せることができてきたのか。もう存在しないことにされることに我慢しなくていい。そんな声をさまざまな場であげつづけてきた人たちがいます。いくつもの分断されていく点と点を見すえながら、かき消されていくノイズをひとつのムーブメント(動き)として生み出していくことの必要性をこれほどに感じる“時代”はありません。

110年ぶりに「改正」された刑法のさらなる見直しと同時に、自らの受けた性暴力を語りたいときには語れることのできる場を、何よりもつながることのできる勇気と力を。そんなことを思い描きながら誰かとつながりながら ――連帯と抵抗の可能性を求めながら―― 歩んでいきたいと思っています。


  

青山 薫

神戸大学国際文化学研究科

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LGBTIQへの暴力を終わらせ、「レイプという「暴力」を「性交」と呼ぶ社会を、私たちは変えたい」という大きな目標に賛同。「男性や性的マイノリティへの不当な扱いをしない」付帯決議について、リップサービスで終わらせない決意に敬意。110年ぶりの性犯罪に対する刑法改正に貢献しつつ、3年後の見直しに向けて即座に動き出す機動力にも。そして、いわゆる「LGBT」ブームにもみ消されない問題の存在を明らかにする「Broken Rainbow」という名乗りに感謝。スティグマ化された当事者・支援者運動が深くかかわる法制度の改正は、それ自体が画期的と思います。が、一度で終わるものではないでしょう。今回は、画期的な点も課題も明らかで、よけいに実りのある再改正をめざしたい。私としては、陰茎の挿入のみが重い(ホンモノの?)性暴力を構成すると、しかも性交の一種であると定める法律は、多くのマス・メディアが報じた「性差の撤廃」とは程遠いものだ、ということを主張していきたいです。

  

マダム ボンジュール・ジャンジ

ドラァグクィーン

NPO法人akta センター長

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性被害を受けてなお、セクシュアリティで差別される社会はおかしいです。ペニスに限らず、その行為が裁かれる必要があります。

すでにLGBTsの中でも、起こっていること。

権利を獲得するためには、いい辛いことや顔を背けたくなるようなことも明らかにしていく勇気と、支えあう思いやりが必要ですが次の改正に向けて動きだしましょう。

  

Small Luk

"Beyond the Boundary-Knowing and Concerns Intersex"創設者

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レイプとは、ペニスのヴァギナへの挿入だと聞いたとき、悲しい気持ちになりました。レイプ事象をどう定義するか?私の考えでは、合意のない性器部分・内への性的なハラスメント、それがレイプ事象です。被害者は、性的行為を拒否する権利を奪われた、それがポイントです。

私はインターセックス当事者で、通常のヴァギナを持っていません。例えば、男性からレイプされたとして、その男性のペニスが私の体に挿入されなかったとしても、私が性行為に合意していなければ、その男性は私をレイプしたと考えます。

多くのインターセックスの人は、典型的なヴァギナを持ちません。ヴァギナが短かったり、外陰部はあっても内部にヴァギナがない人もいます。現行法では、性暴力を受けても、法的保護を受けられません。

インターセックスの人の中には、典型的なペニスを持たない人もいます。インターセックスの人が女性に性暴力を加えたとしたら、法律は、その被害者を保護できないのでしょうか?

私は若かったとき、多くの性的なハラスメントを経験しました。しかし、インターセックスの身体であるというだけで、法律による保護がないというだけで、申し立てることができませんでした。

インターセックスの人々は、性別について望むこと、拒否したいことを選択する権利を奪われ、手術に苦しんできました。私たちは、私たちが望まない性暴力への反対を含めて、法的保護を必要としています。

(翻訳:山下梓)


  

宮田りりぃ

トランスジェンダー

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20代の頃、私は断ることが難しい状況である食べ物を肛門に挿入されたことがあります。10年以上経った今でも、その食べ物を見てふと当時の状況を思い出してしまい不快感を覚えることがあります。私は、陰茎挿入だけを厳罰化することに賛成の立場を取る人たちに、性暴力による心理的ダメージやその後の生活についてしっかりと注意を向けて欲しいと思っています。体内に挿入されたものが何であろうと、耐え難い屈辱や生涯に渡って立ち向かわなければならないような苦しみにつながり得ることをきちんと知って欲しいと思っています。性犯罪規定の見直しを伴う今回の刑法改正を受けて、多様なサバイバーたちの声が十分届いていないのではないか、複雑でやっかいな性暴力の実態が十分知られていないのではないかと不安を覚えます。まだまだこれから、性犯罪規定の見直しを進めていく必要があると考えます。

  

渋井 哲也

フリーライター

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生きづらさや自殺などをテーマに取材していますが、その中で、男性から性暴力によって精神的に崩れていった男性同性愛者の話を聞いたことがあります。手淫や口腔性交を強制させられたことです。

彼自身はその後、覚せい剤に依存するようになっていました。また他人との距離感がうまく測れず、逆に、上から目線になることで、自分自身の位置を作り上げ、自らの心を防衛していたように思います。

刑法改正が110年ぶりになされました。しかし、被害者をどうケアし、加害者をどう更生し、再犯を防ぐという視点はまだ道半ばだと思われます。性的な自己は尊重されるべきです。同時に、損なわれたときには回復を求める権利があります。

性暴力をなくすにはまずは実態を理解をする必要があります。また刑法改正は3年後の見直し規定があり、それに向けた意見集約も大切になります。